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2018年11月28日
リプランハウス 再生 建築家 丸田絢子

性能を諦めなかった建築が地域文化になる時。

今回は、住宅雑誌「Replan」の出版元である札促社さんのオフィス兼住宅のリノベーションについてご紹介します。
幸運も重なり、社会的意義の高いプロジェクトとなったこのリノベーションですが、成功の基盤となったのは、27年前、耐震性、断熱性、耐久性を諦めず、時代の最先端の性能で建物を作った設計者でした。

日本一断熱に詳しい出版社のオフィスリノベーション

リプランは、30年前の創業当初から、北海道発のメディアとして、住宅の環境性能、快適性について、真摯に取材、発信を続けてきているメディアです。その姿勢は近年、北海道から全国のハウスビルダー、住まい手さんへと支持を広げ、各地で地域に根ざした住宅情報誌を出版するまでになっています。その実績からすれば、日本一「断熱に詳しいメディア」といっても業界内異論はないでしょう。まさに、断熱不動産でご紹介するにうってつけの会社です。
そんなリプランさんから、オフィスリノベーションのご依頼をいただいたのは昨年の今頃でした。設計者として私、丸田が、施工者として、ヨシケン一級建築士事務所さんが指名され、計画段階から設計と施工が協力して計画を進めることになりました。
依頼内容は、社屋の近くに建つ、創業当初の本社社屋兼社長宅(通称 リプランハウス)をもう一度、本社オフィスとして再生したいというものでした。
リプランハウスは、一回の増築を経た、延床80坪(264m2)を超える地下1階地上3階建ての建物です。20年ほど前に会社が移転、その後2人の子どもが独立し、今は、社長夫婦2人のみで居住していました。
仕事が多忙な夫婦にとっては広すぎ、上下移動も多い暮らしは肉体的に負担に感じることも増えてきたそうです。

社会課題解決につながる先駆的な取り組み

閑静な住宅地に建つリプランハウスに伺い、移転を決意するまでのお話を聞いてすぐさま、これは地域にとって価値のある先行事例になると直感しました。
昨今、様々なところで問題となっている社会課題に対して、解決のヒントを多く含んでいると感じたからです。
以下、そのポイントをあげながら、リノベーションの内容をご紹介します。

1.都市の高密度利用(空き家、空洞化の回避)

移転計画は、地域に参入を希望していたビジネスオーナーに本社社屋を譲り渡し、遊休化していたリプランハウスを本社として再生するというものでした。移転前の本社に新しい地域の担い手を呼び込みながら、遊休化していたリプランハウスも活用することで、街の密度と活力を高める効果が期待できます。空き家、空洞化で悩む地域が多い昨今にあっては、とても幸運な計画であると感じました。現に、高齢化が進んだリプランハウス近隣の住民たちからは、「若い社員さんが日中近くで働いているということは心強い」と歓迎の声をいただいたそうです。

2.オフィスデザインによる働き方改革支援

デザインにあたっては、部署間コミュニケーションや、業務中の集中とリフレッシュの切り替えについて、札促社スタッフと議論し、反映しました。
また、建築リノベーションと平行して、業務システムの更新チームを別途立ち上げ、ハード、ソフトそれぞれで解決する課題を分担して、働き方改革に取り組みました。
様々な要望が出たリフレッシュルームは、スタッフ自らでデザインし、DIYで内装してもらいました。建材テストも兼ねたDIYのプロセスは、リプランウェブ版でも見ることができます。
私もトークショーで訪問させていただきましたが、友達の家に訪れたかのような、かわいくて居心地のいい空間でした。リフレッシュルームのDIYは、今も継続中とのことですので、今後が楽しみです。

3.人生100年時代 職住近接ライフスタイルの実現

社長夫婦の居住スペースを1階に集約し、2,3階をオフィスとしてリノベーションしました。社長夫婦は、25坪、(これまでの1/3以下)となる居住空間に合わせ、膨大な持ち物のスリム化を敢行。価値観、生き方もろとも見直すような作業に果敢に取り組んでくれました。
結果、段差がなく合理的な空間、出勤なしの仕事環境など、年齢を重ねても無理なく生活、仕事ができる職住近接の環境を整備することができました。
また、住居部で作った料理をスタッフに振る舞うランチミーティングなど、食職近接のコミュニケーションも盛んになったそうです。

4.集約による省エネルギー、維持管理労力削減、コスト削減効果の実現

これまで、社長夫婦には2つの建物の維持管理がのしかかっていました。今回の移転で会社と住居が一つになることで、維持管理の他、水道・電気・通信などの契約も一本化されコストと肉体的負担が軽減されました。
また空間を高密度に利用することで、暖房、空調にかかるエネルギー自体の削減効果も見込めます。性能改修だけでなく、高密度化も省エネルギー化になるのです。
冬の除雪作業、(または除雪外注費)も豪雪大都市である札幌では大きな負担になります。これも一つにまとめることで、負担が軽減されました。

5.ごみとリユース

今回のリノベーションでは、新設の家具をほとんど作りませんでした。新設の家具は壁面作り付け本棚が3セットと、下駄箱くらい。その他の家具は、既存の家具を移設し、徹底的に使い回してレイアウトしました。出版社ですから、とにかく本棚が膨大にあります。1階の住宅部分は、新設の間仕切りを全て既存の本棚をつないで作りました。それでもオフィス、住宅ともに、破棄しなければならない家具、家財が相当あり、社長は、ゴミの処分に頭を悩ませていました。あの手この手でゴミを処分するうちに、粗大ゴミ評論家になれるほど知識がたまったようです。
実は今、EUでは、ゴミの問題がエネルギー以上に注目を集め、リサイクル義務が急速に強化されています。捨てるだけでなく、作る時点で、ものの寿命や処分方法を考えながらデザインをすることが大事だと考えさせられました。

6.建築の再生と建築文化の継承

再生したリプランハウスは、27年前、独立したての若い建築家が才能をつぎ込んで設計した建物でした。改修のために竣工時の図面を読み込むことは、彼の設計と情熱を追体験するような作業でした。
今回のリノベーションでは、オリジナルのデザインの良さを引き立てつつ、新しい感性をアクセントとして各所に加えていく手法をとっています。オリジナルのデザインの意図や、今では難しくなった手の混んだ仕上げを後世に引き継ぎたかったからです。
また、建物に対する深い愛着を持ったオーナーの気持ちも、変わらず引き継いでいけるよう、配慮しました。
今の感覚では派手めに見える外観は、北海道の気候に対抗できる耐久性の高い素材を組み合わせながら、ポストモダンという当時のデザイントレンドを取り入れたものです。ガルバリウム鋼板が外装材として使われ始めた最初期の建物にもあたるそうです。
ダサかっこいいダンスでDA PAMPが再ブレイクしたように、時を経ることで、過去の文化が輝きをますこともあるのかもしれません。リプランハウスでも、時間が、建築を歴史・文化へと醸成される様を感じ取ることができます。
(上)丁寧に仕上げられたルーバー天井は、竣工当時のもの。
会議用の大テーブルは共用デスクに転用された。
(上)棟梁の仕事最終日。「改修は、新築の3倍手間だよ」という棟梁と、
「外壁のシミまで愛おしい」という施主。

今、再生計画を実行できたのは、性能を諦めなかった過去の建築家がいたから。

建物は、需要がなければ放置され、劣化し、最後には解体されてしまいます。建物に需要をつくり適切に再生を繰り返しながら使い続けること(動態保存)は、今後、生きた建築文化を引続ぐ、ほぼ唯一の手段となっていくでしょう。
しかし、生き残りにはもう一つ条件があります。それは再生コストです。再生にかかるコストとその後の維持管理費が、建て替えの場合のコストを上回る場合、建物が取り壊されてしまう可能性は高くなります。
今回の改修においては、建設当時最高レベルの耐震性、断熱性、耐久性で設計されていたことで、性能改修を省くことができ、採算の合う再生計画を組むことできました。
構造は、コンクリートブロック造と木造の混構造。1991年築で、現在の新耐震基準で建てられているため、耐震性も問題ありません。RCブロック造の外側には断熱材、さらにその外側をレンガやガルバリウム鋼板などの耐久性の高い外装材で仕上げてあります。通常、建物は15年に一度、外壁のメンテナンスを行うことが一般的なのですが、築27年を経たこの建物の外壁はまだまだ劣化が少なく、外装交換は必要なしと判断しました。
流石に屋根材は劣化があり改修を行いましたが、外回りの改修は、屋根と玄関位置の変更のみとすることができました。
また、断熱性能もしっかりしています。スウェーデンから輸入された断熱性の高い木製サッシには、トリプルガラスが使われており、木枠の劣化もほとんどありません。
外壁は、厚み75mmXPSで建物をすっぽりと包んだ外断熱を採用しています。最新の高断熱住宅には劣りますが、新築分譲マンションは、北海道でもいまだにウレタン30mm内断熱が基本仕様です。熱の抜け道(熱橋)だらけの新築マンションよりもリプランハウスのほうが、はるかに断熱性能は高いでしょう。気密性能もC値1.0cm2/m2確保されています。
(XPS:押出法ポリスチレン保温板)
さらに、高密度で利用することでエネルギー効率が上がること、多数のオフィス機器の発熱量が暖房補助となること、南側に建物が立て込んでおり、夏の日射遮蔽の必要もないことなどから、ハード面の省エネルギー改修は、エアコンの追加のみとしました。

文化は後世、思いがけず発見される。それまで生き残れる建物をデザインできるか。

(上)出版+ウェブ会社らしく、建物各所にCMYK、RGBのカラーを。
日本建築の最高峰といわれている桂離宮は17世紀に建てられました。しかし、世界的に評価が高まったのは、昭和8年に訪日したドイツの建築家ブルーノ・タウトによって、簡素さに宿った美と精神性を発見されてからです。 桂離宮の機能美はその後のモダニズムデザインの発展にも、影響を及ぼしたと言われています。
我々が今何気なく見、使っているものも、後世に文化として発見されることはあるかもしれません。
昨今では、文化的な価値を確立した建築であっても、利用目的のなさ、改修費用の高さを理由に、次々と取り壊されていきます。
文化として熟成されるまで、機能、性能的に生き残れる建物をデザインすることは、現在の美意識を建築に注ぎ込む以上に、地域文化形成に重要な行為なのかもしれません。
(記事 丸田絢子)